『蓄積』 電車は次の駅に向かい、車内アナウンスが聞こえてくる。 「まもなく曇り空、白紙に幻が浮かびます」 窓をのぞくと等間隔に並んだ木やマンション、倉庫、ビル、飲食店がみえる。終着駅までは距離があり、人々を機械的に運んで… 続きを読む
『育んだ暗号』 ジオラマのごとく、その背景を立体にし周辺の環境を表現している。その展示された光景を眺めた。薄く張ったこの瞳の膜は万人に存在するのか。ぼやけたり、輪郭を持ったり様々に見える。自由気ままな猫さえも虚ろな目を… 続きを読む
『信仰の土台』 -何事も想像する必要はなく持ち寄った”型”で対応すればよい- 「自由ではないけれど自動型よ。羨ましいでしょう」 「そうかな。スイッチのオン・オフも無いようでは何も期待できないよ」 … 続きを読む
『情愛』 季節は足早に通り過ぎ、太陽が沈む時刻は短くなる。天の事情などいざ知らず、装飾を施した街はまた新しい風を迎える。「今日は忘年会の約束だ」そう呟き、スーツ姿の僕は朝に仕事へ向かう。慣れた手つきでキーボードを打ち込む… 続きを読む
『森』 都会では見知らぬ命があり、夜には梟が飛び自由を謳歌する。梟は霞がかったその先を越えようと、力強く羽ばたく。挨拶をするように枝から顔を覗かせる葉も、吹き荒ぶ風の前になすすべもなく揺れる。それは何かを表しているわけ… 続きを読む
『チリ』 哲夫は知った。自由業と謳い、街を転々とするその人生を、悔いもせず、飄々と過ごすはずだった。以前は工場に勤務し、押し出されるトコロテンをひたすら眺めていた。茹でられる前のテングサと自身の心境を照らし合わせるほど、… 続きを読む
『いくら呼んだって返事がない』 木の枝にいる鶯は豪快に鳴き、穏やかな季節の訪れを教えてくれる。温かくなるとなんだか優しい気持ちになれるようだ。都会に住む僕は混雑した電車に乗り、通勤する。ぎゅうぎゅうの車内、肘が少しばか… 続きを読む
『潤色の市』 唐突に途切れた会話。少し鼻の高い君が通り過ぎた。君はストローを加え、甘美な唇を震わす。彼女を尻目に共同体に渦巻く妬みは僕を捉えていた。「次は君の番だが、どうかね」目の前の彼は威丈高に声を荒げる。これは恫喝す… 続きを読む
『恵子のくらし1』 恵子は暮らし、考えていた。夜明け前にいつも、紙タバコを作っていた。 乾燥した手の中で葉がパサパサと踊る。喉に通るものを選別するほどに歳をとり、着実に大人になっていた。幼い頃に、祖母に捨てられたおもちゃ… 続きを読む