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祖母と断片

『祖母と断片』

揺りかごの中で安息した赤ん坊に、緩やかに手を握る母親の愛。
目の前にはバスや普通自動車が行き交っている。間をすり抜ける自転車は調子づき、速度を上げる。拙い記憶を頼りに思い出せるのは、ほんの数年間。紡いだ会話の断片が頭をよぎるばかり。親から子に受け継がれ、そして別れるのだろう。今は仕事に頭を巡らせているあなたも母になる。

机の上に置いているビスケットは、ずっと食べられないままだ。掃除が終わる年の暮れにはなくなっているのだろう。いくら時が経てども、玄関に飾られた写真は表情を変えない。生きては、ピクリともしない壁をずっと押しているようだ。久しぶりに祖母に会いたいと思い、最寄りの駅へと向かう。その想いはどこに存在するのか、知らないが、そこに感情はない。突然降り出す夕立のようなものと考えても、問題はなさそうだ。
もしかすると、慈しみが捻くれた心に効くと知ったからなのかもしれない。

「不幸自慢が始まったら真っ先に盛り上げるのよ」祖母のその口癖が僕は大好きだ。
包み込むようでいて、あっけらかんとして、祖母の前では「気張った優しさ」は沈んでいくばかりだ。

空は橙色に染めり、やがて日が暮れる。とにかく今は、祖母の待つ家に足早に向かう。