日本
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蓄積

『蓄積』


電車は次の駅に向かい、車内アナウンスが聞こえてくる。

「まもなく曇り空、白紙に幻が浮かびます」

窓をのぞくと等間隔に並んだ木やマンション、倉庫、ビル、飲食店がみえる。終着駅までは距離があり、人々を機械的に運んでいく。車内にいるアプリケーションに夢中になる男は、指を器用に動かす。「ヒット!」の文字が画面に浮かぶ度にゲームの点数が増えていく。
その横には薄い水色のシャツを着た、所在なさげな男がいた。周囲の勤め人たちは小さな欠伸をしている。重たい眉毛とシャチホコのようなつんとした髪の毛のせいか、水色の男の表情は厳しい。その男が車窓から街の様子、木々を眺めていたところ、車内に大量の土が降ってきた。あっという間に巨大な盛り土が出来上がった。

「ありとあらゆる願いを込めて、白紙に描いたんだ。本当…のっぴきならないや。」

携帯をいじっている彼が突然立ち上がり大きな声でゆっくりと発言した。

「やあ、どうもどうも。驚かせて悪かったね。土はたくさんあるからね。」

欠伸をする者はいなくなったが、周囲の勤め人は次々と咳き込んでいく。

「ピリリん、ピリリん、パラリング」
「ピリリん、ピリリん、パラリング」

咳とも呼べないそれらの音。水色の男は勤め人の口の前に左手を当て、大事そうに咳を受けとめている。その手を耳に持っていく。

「456…456…。みなさん、聞いてください。これからどんどんいい社会になります。」

勤め人は続々と倒れていく。ある者は土に被さり、ピリリん、ピリリん、パラリング。またある者は扉に頭を打ちつけ、ピリリん、ピリリん、パラリング。
車内に降る土はすっかりと止み、外の地面からは雨が空に吸い寄せられていく。電車は走り続け、速度を落とした際の車輪のきしむ音が車内に響く。

「今日はみんなのために壺を持ってきたんだ。ここに土を入れてごらん。咳はきっと止むから。」

アプリの男と水色の男は微笑みを浮かべている。

「ただし、土以外は入れてはいけないよ。」

勤め人はせっせと土を壺に入れる。状況を鑑みる余裕などはなく、何も知らない男二人に従う。男二人は目を合わせて高らかに言う。

「ゆたかな夢を育てるチャイルド社。」

携帯の画面は数字の3を指し示したまま、止まっている。その他の人々は淡々と降りていき、また乗車する。