日本
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素描1

『素描1』

鏡をみた。
反対に映る現実をみて、Aは沈んだ。テレビから流れる全てのニュースと感情を照らし合わせた。
悲しいわけではなく、Aが自らで選びとった道なのである。

「私は堕落した人に用事があるの」
パンを食べる。
お気に入りのカップにお湯を注ぐ。湯気が消えないうちにインスタントのコーヒーを飲み、正しい姿勢で次のパンに手を伸ばす。Bの力強い噛み方は、肉性を感じさせる。行為に無自覚であることが強さに繋がる。

「目が腫れるのは、目の周りの毛細血管に刺激を与えたからさ」

AとBは同時代を生きながらも、交わることはなく、歩いている。
A「そろそろお布団を洗わないと」
B「先週は本当に有意義だった」
A「背中がかゆいの、かけないの」
B「雨が降り出した」
A「今度、ドラムを習いに行くの」
B「まずは実践だな」
A「いいから、もう、いいから」
B「十分だ」
個人に根ざした会話は行く先を告げない。指先だけで弾かれたギターの弦のようなか細さがある。

家、屋根の下。
その条件にさほど違いはないのに、生活は変わる。それでも多くの人生は交わらない。言葉を紡げど、文字は同化しない。
AとBの交錯はまた新たな記号を生むだけである。しかし、ABは決して後ろ向きではない。名も知らない人同士に色づく季節もある。命あるものは足跡を残さずに生きてはいけない。