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チリ

『チリ』


哲夫は知った。自由業と謳い、街を転々とするその人生を、悔いもせず、飄々と過ごすはずだった。以前は工場に勤務し、押し出されるトコロテンをひたすら眺めていた。茹でられる前のテングサと自身の心境を照らし合わせるほど、妙な心持ちになったこともあった。

工場内では数人の友達も出来た。人に可愛がられる愛嬌があった哲夫は、取り繕った会話を得意とした。

「哲夫ちゃん、おたおたしてらんないよ。納品、今日までだからね」
「哲夫、こっちこっち、それ先月分の記録だろ。またうとうとしやがって」

お話好きの友達は自らを省みる術を持たず、ただ転嫁することにより夜を過ごしている。過去を思う分、幾らか、哲夫の方が世渡り上手である。哲夫の友は、オノマトペの使用権がさも当たり前に、自らに帰属すると考えている。淘汰やフィルターとは程遠い。それは、弁のない一方通行の循環器であり、常に新鮮なサイクルやループへと形作られる。
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歪んだ—-チリは当人の知らぬ間に堆積し、その瓶に入りきらないほどになる。
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哲夫は仕事を辞めた。きっかけなどは特になく、あえて言うならば、週に五日、勤務するに耐えられなくなったからだ。幼い頃からその場しのぎな性質は確かにあった。その小さな火種はやがて、自らで消せないほどに燃え上がる。幸福の形。降伏を模倣し、また、知恵を挿入すること。身勝手な省みは縦横無尽に心を喰らいつくばかり。近づけば近づくほど遠ざかる。まるで真実みたいに、そんなよくある話だ。