日本
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『森』


 都会では見知らぬ命があり、夜には梟が飛び自由を謳歌する。梟は霞がかったその先を越えようと、力強く羽ばたく。挨拶をするように枝から顔を覗かせる葉も、吹き荒ぶ風の前になすすべもなく揺れる。それは何かを表しているわけでもないのに、森を形作る主人公かのごとく生きいきとしている。その森にしばらく迷えたことは幸運や奇跡に値するのかもしれない。

「夕暮れに種類があることを知らなかった」

その言葉は、しんとした森にこだまする。日常を繰り返してきたものにとって、慣れた生活からの離別は少しばかり心苦しい。事実はどのように見え、いつ消えるのか、そのタイミングがわからないのだから。

目が覚めれば、森の中。あまりにも唐突な出来事に最初は目を丸くした。慣れてしまえば、驚きや恐怖は「モノを見る目」に変わっていた。生きるための金勘定や呼吸を忘れ、「慈しむということ」に没頭した。動的な生命体だけではなく、この地自体を踏んでいる実感が湧いてくる。普段における繋がりとは違った、底から溢れる、共鳴を感じた。踏んでいるという実感そのものが、うまく心と呼応した。 

その地は一面、虫に喰われた葉で覆われ、カサカサとした音が立体的に聞こえる。少し歩けば、大量の木は見えなくなり遠くに街が見えてくる。見晴らしはとてもよく、清々しい気持ちになった。後方からは木の匂いが仄かに香る。あらゆる楕円形の妄想が踊る。数時間の滞在だったが、体温の変化が少ない恒温動物にとって、過ごしやすい場所だった。日はやがて沈み、元の森に戻っていくだけ。