日本
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信仰の土台

『信仰の土台』


-何事も想像する必要はなく持ち寄った”型”で対応すればよい-


「自由ではないけれど自動型よ。羨ましいでしょう」
「そうかな。スイッチのオン・オフも無いようでは何も期待できないよ」
全ては型から発想されていると考える真美子は、自動販売機でトロピカルジュースを買う。遥か頭上には、たなびいた雲がある。
「夏を予感させる日差しがおじさまの頭皮をジリジリと攻撃しているとね、小躍りしたくなるの」
環状線を乗り継ぎ目的地に向かうように、彼女は慎重に自由を演じる。呼び出された弘信は額の汗をぬぐい微笑を浮かべる。ふたりは知り合って間もない。真美子のエネルギーに吸い寄せられる形で交際は始まった。会話の割合は8:2である。

辺りの様子を見る隙もなく、彼女はまっすぐに目を向ける。
「なにあれ、見てよ。変わった子ね」
目線の先にいるのは少年で小さなボールを頭にのせて、円を描きながらマンホールの周りを歩いている。”a little”と書かれたTシャツはだぶついている。少年には、不気味さと引き換えに得たような愛嬌があるが、その笑顔は不自然だ。”糸で口角を吊り上げているみたい”と真美子は思った。

彼女は少年を間抜けと捉えているが、その瞳は少し潤んでいる。テーブルの上に置かれたカシューナッツには、目もくれない。

-見えるものだけが見えている-


利己的な発想かどうか、弘信は考えあぐねた末に「そういうものだよ、子どもは。君の型には無意味がなくて、自由もなければ繰り返しもない。だから変わらない線の上にいるんだよ」と早口で話す。何かを閃いたのか、少年はこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。その足取りは小さく、新鮮さを噛みしめるような一歩だ。
少年は近づき「ワレこそは不束者だ、ワレこそは不束者だ」と二度くり返した。

その言葉に意味はなく、少年にとっては魔法のようなものであるらしい。突然、真美子の頭からカチンと音がした。そばには著名な建築家がデザインした、統一された建物が微動だにせずに、ただ存在している。
「ワレこそは不束者だ、ワレこそは不束者だ」少年は味をしめたように、くり返す。
いつの間にか弘信の姿が見えない。
「やだっ、どこよ」
喉が干からびるほどに熱くなり、彼女は見えるものだけを見ていた。
雲の隙間から太陽が顔を覗かせて世界の明度は高くなっていた。