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育んだ暗号

『育んだ暗号』


 ジオラマのごとく、その背景を立体にし周辺の環境を表現している。その展示された光景を眺めた。薄く張ったこの瞳の膜は万人に存在するのか。ぼやけたり、輪郭を持ったり様々に見える。自由気ままな猫さえも虚ろな目をしているはずだと考えた。また、「表層をなぞっただけの焦燥だろ」と何も知らずに本質をつく友なら、沢山いると改めて気がついた。そんな時はふたりの暗号、阿吽の呼吸だけに安息できる。

車窓からちらりとみえる、あのマンションの一室にぼんやりと灯りがついている。普段はついていないのに、それを知ってからか次の駅に着けども妙に落ち着かなくなる。物語は同時多発的に進行中であるが、想像で見物できる余裕もない。待ち合わせている人々の少し先には、話す喜びがある。暖かな対話に包まれていくのだろう。主人公を譲る癖もいつもと同じ。

「ご飯を買って帰るね」と妻から連絡がある。くっきりと見えたり、また、ぼやけたりする視界は気にならなくなった。育んだ時間が作った暗号は自分にもあったのだ。素直に喜ぶことに罪悪感を持つようになったのはいつ頃だろうか。それでも静まった周囲の中にきちんと僕はいる。

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